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物音は団地のゴミ置き場から聞こえた。
ボスッ、ボスッと何か空気の入ったものを潰すような音だ。パキッと空き缶を潰すような音も聞こえた。
ゴミを潰しているのだろう。
景斗が住んでいる地区でもゴミの分別はうるさく、ペットボトルなどを潰すのは彼の仕事だ。
白いコンクリートの壁の前にゴミは無造作に積み上げられていた。
少年はその前にしゃがみこんでいた。彼の足もとには潰れた段ボールやペットボトル、空き缶が転がっている。
奇妙な気がした。何故かはわからない。
エスが先に行きたがって引き綱を引っ張っる。その脚がコンクリをひっかく音に少年が振り向いた。
逆三角形の細いあごをした少年で、体が小さく、小学生のように見えた。顔に比べて耳が大きいな、と思ったのが第一印象だった。
少年はなんだか喧嘩でも売るような目つきで睨んでいた。
なんとはなしに気まずくて、そう、例えば彼が粗相でもした現場を見たような気分がして、景斗はさっと目をそむけてエスの行きたがっている方向に歩き出した。
三歩ほど歩いて(おや?)と振り向いた。
少年はもういなくなっている。
景斗はエスをひきずりながらゴミ集積所まで戻った。潰れたペットボトルを拾いあげる。
なぜ奇妙な気がしたかわかった。
ペットボトルは立った状態で上から潰された形だったのだ。
いくらこの方が体積は小さくなると言っても足で踏んだだけでこんなことができるなんて。
ものすごい力で上から一気に潰さなくては。
見回すと空き缶も段ボール箱もみんな上から押された状態だった。段ボール箱はひらたくなり、まるで倒れ伏した人のように見えた。
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