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高校一年の栗塚景斗は、愛犬のエスを連れて夜の道を歩いていた。
夏が近い夜は十時を過ぎてもどこかにほんのりと昼間の熱を隠しているようだ。
ちょっと前まで空も見えない程咲いていた桜の白い花も散り、瑞々しい緑の葉の匂いが舗道に立ち込めている。
景斗がこの道を選んだのは大した理由からではない。
いつも散歩に行くと立ち寄るコンビニが改装で閉まっているので、今日は別な道を通って少し遠くの店まで行こうと思っただけだ。
その道は百メートルほど桜並木が続いたかと思うと、唐突に終わる。
代わって小さな蛍光灯のついた電柱になるのだが、光も弱いし間隔も広いので暗い道、というイメージがある。
エスも知らない道なので緊張しているようだ。電柱という電柱で立ち止まり匂いを嗅ぎ、マーキングをしてゆく。
角に来て左に行くと大きな団地があって、その先にコンビニがある。コンビニには団地をつっきっていった方が早い。
景斗はなぜかしりごみするエスをひっぱって四角い建物が並んでいる敷地に入っていった。
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