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「だが、僕にだって生涯の伴侶を選ぶ自由がある。僕はあのひなびた瓢箪みたいな娘さんと、これから一生毎日顔を合わせて生きていくなんてできそうもない」 「お前のその正直すぎる口が災いとなるのを一度見てみたいもんだな」 「僕が正直者だって? ひなびた瓢箪でも精一杯褒めたつもりだ。本当は陶芸家の失敗作の泥の塊にしか見えない。あの奥方からあんな化け物が生まれるなんて、まさに遺伝子の失敗だ、大臣は失敗作だ」  こいつは本当に口が悪い。須藤が口元をゆるませると、そこでだ、と靜は表情を変えず、胡坐を組み直した。 「申し訳ないが、私には心に決めたご婦人がいるので見合いは辞退させていただきたいと言ってきた」 「そんなことであのオッサンが引き下がるか?」 「もちろん『すっぽんの中野』と呼ばれる大臣だ、そんなことで引き下がってくれるとは思っていない。だからもう結婚秒読み、両家の顔合わせもすみ、結納も一か月後に迫っている。ぜひ大臣には婚礼の際の仲人を務めていただくようお願いしようとしていた矢先であったと言ってきた」 「大ホラ吹きの災いは今だったのか」  須藤が嬉しくてたまらないと大口を開けて笑うと、靜はやや下に視線を下げた。カラになった鉄鍋がぼんやりとした電球に照らされて黒く光っている。 「……なんだ、それともいるのか? そんな女が」  須藤の追及に靜はすぐに視線を戻すと、首を横にふった。 「いやいない。架空の女性だ」 「大人しく大臣に頭を下げて、その瓢箪娘だか焼き物女だかと結婚しちまえよ。器量も多少悪いほうが捨てられまいと尽くしてくれて、いい世話焼き女房になるって言うぜ?」 「嫌だ。あの顔は僕の細胞の一つ一つが拒絶している」 「お前ねえ」 「だが案ずるな、須藤よ。お前は寛容で寛大な男だ。恐らくそう言うだろうと思って、大臣に進言しておいた。あの泥姫を妻とするのはお前だ」 「はあ!?」 「見合いの日取りは近々先方から伝えられるだろう。一張羅は早めに洋式洗濯に出しておけよ。今日の用事は以上だ。終了」 「おまえっ、ちょっと待て!」  立ち上がり、スタスタと歩き出した靜のあとを慌てて追いかけるも、料亭の玄関につけてあった車に乗り込み、靜は後ろもふり返らずに去っていってしまった。
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