第1章

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「あ~、中トロが食いてえなぁ」  俺は客の注文を作りながら思った。今、作っているのは向日葵がメインのアレンジだ。5月にも入れば夏の季節花を注文で取り寄せることができるのだ。 「今日も残業かぁ、ちくしょう。寿司じゃなくてもいいから、まともなもんが食いてえな」  俺はカレンダーを見ながら自分の休みを確認する。もう一週間以上休んでいない。明日行ってやっと久しぶりの休息が取れるのだ。それも全て、バイトが一人逃げたからに他ならない。 「ああ、くそ、熱い。北海道の夏が懐かしいぜ」  俺は一人、季節外れの天候に汗を垂らしながら大学時代を思い返していた。俺は北海道出身で、大学時代の夏休みにマグロ漁に出かけたこともある。それがきっかけで漁師だった頃もあったが、彼女に子供ができたため、彼女の実家である福岡の花屋に勤めることになったのだ。 「絶対休みに寿司食いに行ってやるからな。中トロといわずにたっぷりと山葵(わさび)の効いた大トロが食いてえな。スシローでいいから、腹一杯食いたいぜ」
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