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たまに夢を見る。
まだ幼かった時の記憶、夢の中の僕はいつもいじめられていて頬を伝う涙と身体中の傷の痛みがやけに生々しく、自分の前に立ちはだかる黒いいくつかの影は絶対に越えられない壁のように立ちはだかる。
そんな壁をいつも決まって同じ奴が壊しに来る。僕に向ける背中はとても格好良くて、僕に差し出してくる手は温かくて優しかった。そして少年は何かを呟く、その言葉は思い出せない。ただその言葉はとても力強くて優しい一言。
そこで夢は必ず終わる。これ以上は要らないとでも言うかのように…
まただ、もうこの夢を見るのは何度目だろうか。思い返して数えてみようとしたけど面倒だから止めよう。今となってはこの夢が本当に記憶の1部なのか怪しいところだ。
「燐翔(りんと)~、いい加減起きなさいよ~」
「もう、起きてるから」
階下から聞こえる聞き慣れた母親の声に返事を返し、リビングへ向かって行く。
今は4月上旬、つまり春休みが終わって新学期が始まる時期で、まさに今日から新学期が始まる。怠がりで面倒くさがりの燐翔にとっては嫌なイベントの1つで、早く終わらないかと体育館の壇上でくだくだと話す老人(?)の話を右から左へと受け流す。
数十分後
新しい教室の新しい自分の席から窓の外を眺める。
(2―Bか…)
それぐらいの事しか考えつかないためか、思考がだんだんと止まっていくのが分かる。瞼が重い、開くことは出来るが逆らう必要がないと判断し、瞼を閉じた。
「…い、起きろ。幸代(ゆきしろ)!」
ふっと顔を上げると担任の田中(たなか)が少し呆れ気味にため息をする。
「幸代、自己紹介をしろ」
田中はまた、ため息をする。
燐翔は立ち上がりシンプルな自己紹介を始めた。
「えーっと、幸代 燐翔です。以上です。」
席に腰を下ろす。クラスが静寂に包まれる中、カタンとイスが倒れる音。クラス全員と同じように音のした方を見る。
そこには、真っ黒な髪が真っ直ぐに首のあたりまで伸びた大人しそうな男子生徒。
「幸代、燐翔…、本当に燐翔なのか?」
男子生徒は燐翔を見たまま、目を見開いている。そして、そんな男子生徒を見て燐翔がポツリと呟く。
「お前、誰?」
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