【オレンジ】

０．

　黒のワンボックスカーのスモークが貼られた窓を少しだけ開けて、その隙間から外を覗く。

　そこから見えるビルの群れの狭間に広がる紫と橙色のグラデーション。

　今まで晴れていた空からパラパラと雫が降ってきたようで、薄暗い窓に粒が張り付いていた。その、それぞれの小さなガラスの欠片に、今沈みかけている夕日の色が反射してキラキラと鮮やかに煌めいていた。

　それを眩しそうに目を細めて見つめていると、ふと遠い過去へと記憶が遡る。

　あの時は、あんな別れが来るとは夢にも思っていなかった自分の若さに、ふと笑いが漏れてしまう。

（そうだ、あの日もこんな空の色してたっけ……何だろ、すげー胸がいてぇ）

　何の手も加えていない漆黒の、目に掛かるほどの前髪を気だるげにかきあげると、二重の鋭い目を眩しそうに細め、整ったその顔をくしゃりと歪める。

　胸に手を押さえながら、それでもあの楽しかった日々に、目を潰ればいつでも戻ることが出来た。

　そう、いつでもアイツの笑顔も匂いもあったかさも思い出せた。
　ちっとも色褪せる事を知らないアイツの全てに、懐かしさと共に切なさが込み上げる。

――――アイツも、どっかでこの夕日……見てんのかな？

『オレンジ』