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正人は水泳部のホープである。今年は正人以外にもいい選手がいたとかで、水泳部は地区体を抜けて県体にまで駒を進めることができた。そのため大会前は練習に明け暮れていたのだ。県体の先は…現在の正人を見れば言わずとも分かると言うやつである。
「どうして言ってくれないのよ」
「だって、千夏、言ったら朝から来てたでしょ」
こくり、とうなずく。千夏は美術部に籍を置いている。部員が足りないからと、中学時代の先輩に頼み込まれて入った部で、幽霊部員に近いことをしていた。もともと絵だけかければいいという気楽な人間たちの集まりなので、特に夏休み中の方針などもない。千夏は気が向けば顔を出せばいい、非常に暇な身の上だった。
「だからだよ」
小麦色に焼けた顔に苦悩を漂わせて、正人は息を吐いた。
「何よ、あたしに家に来て欲しくないっていうの!」
「別にそういう訳じゃないけどさ」
「じゃあ、何?」
見つめられると正人は弱い。幼いころからの癖で、どうしても千夏には勝てない。腰が引けるのもそのためだ。
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