第1章

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 数件隣の家に住む岡野正人と河合千夏は幼稚園からの同級だ。小、中はともかく、高校まで一緒になって、腐れ縁も極まったという感じだ。近所には他に年の近い子供もなく、自然と仲良くなった二人は、そのまま年を重ねてきた。友人よりも近く、家族よりは遠い、幼馴染という関係。親同士も仲が良いから、それに拍車をかけた感もなくはなかった。  そんな二人は親公認の恋仲なのだと、まことしやかに噂されている。 「千夏、別に母さんは悪いとは言わないよ。正人君は良い子だし」  実際、岡野の一人息子といえば秀才で、運動も良くできると評判の少年だ。そんな少年と自分の娘が噂になるのは悪い気はしない。けれど、母は知っていた。 「でもねぇ」  畑の中道に立つ千夏の全身に目をやって、深く深くため息をつく。よれよれのTシャツに五部丈の紺のズボン。帽子の下の髪は、頭の後ろで適当に一まとめに括られている。自分とよく似た目ばかり大きな丸顔には、おそらく日焼け止めさえ塗られていない。たった今まで部屋でくつろいでましたというような緩みきった格好で、好きな男の子に会いに行く女の子はまずいないだろう。 「その格好。もう少し何とかしなさいよ」
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