第1章

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 はっきり言って母は頭が痛い。千夏と正人の関係は噂とはあまりにかけ離れていた。二人の関係は犬の仔のように無邪気に転げまわっていた幼いころと、何にも変わっていなかったのだ。そして、その主な原因は年頃になってもしゃれっ気一つない自分の娘にあるのだと、分かっていたのである。 「何で?今さらじゃない」  しかし、千夏は気づいているのかいないのか、首をかしげている。自分は娘の情操教育に失敗したのだろうか?母は眉根を寄せて、大きくなる頭痛と戦った。 「あんたに期待した母さんが馬鹿だった」 「何が?」 「もういい。もういいから、これ持ってさっさと行きなさい」  母は笊の中のきゅうりやトマトといった夏野菜を、予備の笊にいくつか移すと千夏に差し出した。岡野家への手土産ということらしい。 「えー。こんなの正人の家でも作ってるよ」  田舎の家には珍しくなく、岡野でも家の近くに畑がある。田もいくつか持っていて、祖父母が米や豆なんかを作っている。岡野の家は立派な兼業農家だった。畑がこれ一つしかない河合家とは規模が違う。
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