第5章 困った時はいつでも呼んで

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夜中に携帯の音で目が覚めた。わたしを抱きしめて眠っていた竹田の腕から逃れる。奴は唸って更にわたしを抱き寄せようとしたが、構ってられない。身を捩るようにしてそこからすり抜ける。 カーテン越しにも外がまだ真っ暗なのはわかる。スマホを手に取って画面を見て、肩を竦めた。夜中の二時じゃん。相手は大道具サブの男の子だ。まだ作業してんのか。 「…はい。どしたの?こんな時間に。まだやってんの?」 竹田を起こさないように声を抑えて出る。が、既に意味がなかったことに気づく。背後からそっと抱きしめて身を寄せてきた。 『…いや、俺じゃないんだけど。てこともないけどさ。あいつに付き合ってたら、全然終わんないんだよ、悩み始めちゃってさ。…ちゆちゃんからガツンと言ってやってくんないかな』 「…あー、小笠原くん…」 わたしは欠伸をし、呻いた。まだ本番まで微妙に間がある。こんな時期からそんなに根を詰めたら保たないと思うけど。 「物品倉庫にいるの?…今から行くよ。ちょっと待ってて」 『いいよ、女の子がこんな時間に。…危なくない?迎えに行こうか』 「ああ…、大丈夫。ひとりじゃないから」 さっさと起き上がって身支度を始めている竹田の方を伺ってそう答える。電話の内容は素早く察したらしい。 「悪いね、夜中に。…倉庫まで送ってくれたら帰って寝てていいから」 一人でも大丈夫だよ、とか言うだけ無駄なので素直に送ってもらいつつそう言うと、奴は肩を竦めて答えた。 「話終わるまでいるよ。てか、そんなに長く付き合わない方がいいぞ、どっちにしろ。こんな夜中にいつまでも、きりがないよ。本番直前ならまだともかく」 「それはわかってる。あの子、もうあれだけにすごい囚われちゃってて、周りが見えなくなっちゃってるんだよね。ちょっと冷静にさせて、帰って休ませないと」 そのために行くんだから、そんなに時間をかけるつもりはないんだけど。 倉庫に入ってくと、頭を抱えてじっと装置を睨んでる小笠原くんと、その側で明らかに彼を持て余してる様子の電話してきた子、木場くんの姿がすぐ視界に入る。わたしの姿を認めて、木場くんがほっとした声をあげた。 「うわーちゆちゃん…、もう、何か言ってやって。こいつ」 「何なの行き詰まってんの?やっぱ」 近寄って行って小笠原くんに声をかけると、肯定するように小さく唸り声を出した。背後でやり取りが聞こえる。
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