第5章 困った時はいつでも呼んで

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「何だよ、竹田も来たのかよわざわざ」 「しょうがないだろ、目が覚めちゃったんだお前の電話で」 「…もしかして、一緒にいたの?こんな夜中に」 小さく口笛が聞こえる。後で絞り上げてやる、二人とも。覚えてろ。今は取り合わず小笠原くんに向き直る。 「どうなの、なかなか上手く動かない?」 彼は舞台美術の担当だが、特に動く装置にこだわりがあるらしく、仕掛けをやることになった時に担当させて欲しいと手を挙げてきた。今まで経験もあるみたいなので任せることにしたのだが。 「いや一応動くようには出来たんだけど、何とか。でも、動かしてみるとなんか、思ってた感じとどうも違うんだよね。こんなんじゃあんまり意味ない…、とにかく、ただ動きました、っていうだけに見えて」 とにかく仕上がりにすごいこだわりがある。完璧主義者というか。まあまあ、この辺でいいやとか、適当なとこで手を打とうとかいうのが苦手みたいである。わたしは内心唸った。本当は、ここはある程度の段階で割り切って、他の箇所の作業も担当して欲しいんだけどね。もうずっとここにかかりきりになっちゃってるから。 「ちょっと、動かしてみて」 木場くんも寄ってきて、二人で仕掛けを作動してみせる。木場くんは大道具担当なのだが、小笠原くんとは同じクラスということもあり一緒に行動することが多く、結局舞台装置を作るのにも付き合わされてたみたいだ。 わたしは腕を組んで思案した。確かに動作を見ると、少し唐突というか、動きに自然さとか滑らかさがない。とにかく動きました、とは言い得て妙だ。 「まぁ、学生の公演でどこまで完成度を要求するか、という問題にもなってくるけど。どこかある程度のとこで手は打たなきゃならないとは思う」 わたしは考え考え、口を開いた。 「でもまだ本番まで間もあることだし。改善の余地はあるよね。これ、動いてるとこ裏側からもっかい見せてよ」 そしてその部分をスマホの動画で撮り、もう一度表側からも撮る。それを見返しつつ彼らに提案した。 「これさ、とにかくきちんと動くようになってるわけだから、これで本番に臨んでも問題ないとは思う。でも、納得がいかないんでしょ?」 「うん。…だって、これくらいだったら誰だって出来んじゃん?」 小笠原くんの台詞にわたしは肩を竦めた。やっぱりみんな、公演で人目を引きたいって思いが強いんだよね。
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