十八番

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十八番

 一年前、友人が事故死した。  先日一回忌が終わったと聞き、仲の良かった連中で久々に線香を上げに行った。  その帰り。  集まること自体が久しぶりだったので、みんなで飯を食いに行き、その流れで、たまにはと、カラオケに繰り出した。  流行り歌や持ち歌と呼べる定番、場を賑わせるためのノリ曲などを次々入れ、歌っていたが、途中、何度となく、誰も選曲してない歌がかかった。 「これ、誰が入れた曲?」 「俺じゃないぞ」 「俺も知らない」  そんな会話を何度か繰り返す内に、みんなして、時折紛れる曲が、死んだ友人の十八番だったことに気づいた。  居合わせた全員で顔を見合わせた後、みんなでマイクを分け合ってその歌を歌った。一度では足りなかったので、今度は自分達のその曲を選択し、二度、三度と歌った。  そして帰り際。  もう誰も曲など入れていないのに、室内に、友人が大好きだった曲が流れたのだ。  サビの部分がほんのワンフレーズ。それに全員が驚いて室内を振り返ると、どこからともなく『ありがとう』という声が聞こえた。  その時のメンバーは、それぞれの生活が忙しいため、普段はほぼ連絡を取り合うこともないが、死んだ友人の命日近辺だけは休みを合わせ、全員でカラオケに行っている。  もちろん、最初の一曲は、アイツが十八番にしていた曲の全員合唱だ。 十八番…完
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