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ぼくが勤務するヒトロイドグループはつい十数年前にこの谷を超えたばかりだった。人間が初めて谷を超えた瞬間だった。
ぼくたちの機械は共に議論を交わし、スポーツを楽しみ、カラオケに行き、仕事をし、喧嘩さえした。夢のようだった。彼等はヒトロイドグループの希望の星なのだった。
テラスに優しげなフルートの音楽が流れ始める。昼休みが終わってみんなそれぞれ席を立ち、自分のデスクへ戻っていく。
ぼくと彼女はまだ木陰に腰掛けたまま、遠ざかっていく喧騒を見送っている。ぼくはアールグレイを飲みほした。彼女は薬のシートをまだ手の中でいじくっていた。
「私は病気です」
「そのようだねぇ」
「あなたと、いたい。」
ぼくはあえいだ。人間が酸素を取りこむのに適してないんじゃないか、このあたりの空気。これでは窒息してしまう。
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