夏祭り

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……だけど、ポイの上に出目金は乗っておらず。 それどころか、完全にポイが破れていて、これ以上はもう何もすくえないというのが見ただけでわかった。 「……全然ダメじゃん。誰も金魚を飼えなくても、関係なかったね」 「くっ!おばちゃん!もう一回だ!」 留美子にバカにされて、引き下がれなくなったのかな。 何としてでも金魚を取ろうと、ポイを受け取って金魚を睨み付けていた。 「待て、高広!大物を狙わずに、動きの遅いやつを狙うんだ!」 お腹が少しマシになったのか、翔太が高広の隣で金魚を指差して見せる。 「うっせぇな!わかってるっての!」 そう、翔太に返事をした時だった。 「フッ、弱った金魚はすぐに死ぬ。そんなのを取っても仕方ないだろう」 高広が陣取る場所から少し離れた所。 紺色の甚平を着た男の人が、華麗な手さばきで次々と金魚をすくい上げながら、高広にアドバイスをしたのだ。 「そんなふうに水の中から一気にポイを上げたら、抵抗で破れるに決まってるだろ?水の中での動きは、横に滑らせるように、紙に抵抗を加えないようにするのが基本だ」 お椀とポイを両手に持ち、勝ち誇ったような笑みをこちらに向けたのは……クラスメイトの杉本健司だった。
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