夏祭り

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私と留美子がこんな事を言っているなんて知りもせずに、皆は金魚すくいに熱中していた。 結果、私には高広と翔太がやっとの思いで取った三匹。 そして理恵には、二十匹以上の金魚が。 あまりに多過ぎて、理恵が家で飼えないという事で、健司が水槽に戻したのだ。 「わ、悪ぃな。翔太と合わせて三匹しか取れなくてよ」 「良いんだよ。うちの水槽は小さいから。ありがとうね」 健司に負けたのがよほど悔しかったのか、珍しく落ち込んでいるのがわかる。 こんな高広を見たのはいつ以来だろう。 小学生の頃に一度凄く落ち込んでた時があったような気がする。 その時、私はどうやって励ましたんだったかな。 「いやあ、頭ではわかってても、手は動かないもんだな。練習あるのみだ」 翔太は負けを認めてもあっさりしてるのに。 「翔太、それ本気で言ってんの?金魚すくいの練習なんかして、何になるっての?たまにあんたが頭いいのかバカなのかわからなくなるわ」 「う、うるさいな!別に良いだろ!練習くらい!」 留美子にあんな事を言われても、翔太は前向きだなあ。 どうやったら高広を元気付けてあげられるかな。 小学生の時、どうやって私は高広を励ましたんだろう。 そんな事を考えながら、皆の一番後ろを歩いていると、その時の光景をふと思い出した。
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