第1章

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 筆に緩く力を込めて色をつけていく。配色の仕方はどうかと自分の心と向き合い対象物を見る。  よし、この色だ。これで俺の作品は完成する! 「さっさとしてよ、5月っていっても寒いんだからね」  そういって彼女は俺の体を蹴った。 「もう少しだけ、な。頼む」 「頼むじゃないわよ。できるっていって何時間経ってると思ってるのよ、もう無理」  彼女はそういって暴れだした。もう少しで俺の最高のヴィーナスが完成する予定だったのに、こうなれば仕方がない。 「よし、葵。セックスしよう」  俺は彼女を宥めるために優しくキスをした。彼女は嫌そうにしながらもそれを受け入れ、三度目のキスをする頃には機嫌を直していった。  それもそのはずだ、今俺達は無敵の場所にいる。誰もが憧れるフランスの有名地に滞在しており、しかもその場に泊まっている最中なのだ。  そう、俺達は世界遺産・大聖堂のモンサンミッシェルでお互いに肌を晒している――。
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