第1章

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 フランスに辿り着き、俺と葵は新婚旅行気分でこの地を満喫していた。パリ市内でルーブル美術館でモナリザを楽しんだ後、中国人が作る札幌ラーメンを啜り、日本人が運行しているマイナビバスで今、フランスのモンサンミッシェルを訪れているのだ。  俺達は今、天空にあるような聖堂の前に立っている。真横で開催されているマラソン大会がなければ、もっと夢の世界に浸れていただろう。 「凄いね、今日はここに泊まれるんだね」 「ああ、そうだ。ちゃんと道具を持ってきていてよかったよ」  俺と葵は美術大学で知り合い、お互いの体をデッサンし合う仲だ。ポーズを決めてじっとするのは難しい。やはり会話がなければ絵も集中できない。そこで俺達は契約を結んだのだ。  セフレという禁断の契約を。 「でもさ、ここまで二人だけで旅行に来ると友達じゃないよね」 「まあ、そういうなよ。俺達は体だけの密接な繋がりがあるじゃないか」  俺は彼女の体に惚れ込んでおり、彼女も俺の体が好きだといってくれている。俺達はお互いの中身を知る前に体の関係が出来上がっていた。だからこそ、恋人という契約には至らず、今も友人同士でいる。  しかも今年で4年目だ。今ではこのセックスも儀式化し、彼女がピルを飲んで安心安全に配慮していることに目が届くような関係である。  しかし俺達は就職も決まらずに卒業旅行に来ており、これが最後だという予感めいたものさえある。
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