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彼女の物言いに少しだけショックを受ける。わかっていたことだが、彼女は俺に対して心を開かないのだ。
俺にその気持ちがあったとしても――。
「なあ、葵。俺達、どうなるんだろうな」
俺は葵が好きなポイントを触りながら伝える。俺には今日しかない。彼女と一緒になるチャンスは今日しかないのだ。
「どうなるって? これで最後じゃないの?」葵は冷静にいった。「だってもう私達、実家に戻るって決めたでしょう? 私は実家の画材屋を手伝うしかないし、あなたも……自分の道を行くといっていたじゃない」
「……そうだな」
俺は自分に自信が持てない。だからこそ彼女と先に進んだ関係になれていないのだ。就職、結婚、家庭……、俺にはその先の道が未だ見えていない。そう思うと急激に心とあれが沈んでいく。
「……なあ、もし俺がさ、お前が必要だっていったらどうする?」
俺は弱気になりながらも懸命に自分のものを奮い立たせた。このままなし崩しに別れるのだけは嫌だ。彼女の美しさを閉じ込めた絵をきちんと完成させたい。
俺は体だけでなく、お前の心も好きだから。
「ねえ、その前に一つ質問していい?」
彼女の言葉に俺は無言で頷いた。
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