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周囲には動揺がバレぬよう悠々と教室に入り、いつも通り偉そうに席に着いた。
最初の頃は慣れなかった足組みも今では貫禄さえ感じさせる。
あくまで個人的感想だがその姿を見るクラスメイト達は間違いなく畏縮していた。
あーあー俺も普通の友達作ってアキバとか出掛けたかったなーとか思っていると耳に入ってくる俺に対する不安の声。
『え、ヤバくない? マジ?』
『死体の横で漫画見て笑ってたって』
『ヤクザ同士の抗争に巻き込まれてたらしいぜ』
そんなわけねーだろ! 等と心の中でツッコミつつ聞こえないふりをした。
ありもしない噂話を流されるのはこれで丁度百五十回目……流石に耐性ができてきた。
だが想定にない出来事が起きた。
自分の人生の哀れさと空の色を重ねて教室の窓を眺めているとガタンと音を立てて誰かが席を立った。
「あ、忘れてたけど、なんかそこの人、人殺しの犯人を捕まえたみたいで」
それだけ言って席に着いたのは椿だった。
ざわついていた教室は一瞬にして若干の静寂に包まれた。
俺の為――?
そんなわけはない。俺には分かる。
先生、生徒から「正義の味方」と善福の信頼を得る椿の事だ。自分の中の正義が許せなかったのだろう事を俺は理解した。
だが言葉は信憑性抜群だった。
そしてざわつきを取り戻す教室は担任が入ってくると同時に収束したのだった。
俺の為じゃないと知りつつも俺は椿に感謝した。
ありがとう、椿に向かい口パクでそう告げる俺を椿はいつも通りクールにスルーした。
言うまでもなくそんな椿と学校一と名の付く不良の俺が幼馴染という事は秘密にしてある。
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