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序章
何がなんだかわからないままに気がついたときには全身が悲鳴をあげていた。
頭がにぶく痛む。右腕と右脚がいやに熱く、胸の辺りには圧迫感があって、それもそのはず助手席のシートがこの身に押しつけられている。身動きがとれず、どうすることもできない。
――そのとき、僕は自動車に乗っていたが、こうして状況をかえりみるに事故に巻き込まれたのは明白だった。
もうもうと立ち込める煙に目をすがめながら、あまりの事態に思考も放棄し、空っぽの心のなかに外部の音ばかりを流し込んでいた。
視界は煙で不明瞭、嗅覚は焦げくさいばかりで、触覚は痛みのせいで意識を向けたくはなかったし、自分の唾液の味なんかはどうでもよかった。
だから僕は自然と耳をすましたのだ。サイレンの音や、何かが小さく爆ぜる音がする。こめかみの辺りがやかましいのは血流の音が聴こえているからだろうか。
車が爆発しておだぶつになるようなこともなく、この静かな惨状は阿鼻叫喚とはほど遠くて、地獄というよりは天国の廃墟とあらわしたほうが適切だった。
ようやく救助活動を始めた隊員たちの交わす大声で騒がしさを増していく。
「ちょっと君!! 何をしている!?」
そんな声が聞こえたすぐあとだった。
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