第一章

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 そんな変わり者のメッカにあって蛇渕さんはまだまだ一般人側に見えた。  蛇渕さんはリーダーシップを発揮しようと声をあげるものの一部の人間はあまりにそっけなく、それでもめげずに、うとましがられるのもいとわず相手と真正面からぶつかろうとするのだ。  説得が成功したときの蛇渕さんは太陽のように笑う。  交渉相手も釣られて笑ってしまうその笑顔は直視できないくらいまぶしくて、僕が彼女に焦点を合わせられないのはそんな底抜けな明るさがゆえなんだろう。  ただ、その生きかたは敵を増やすばかりだとも感じる。世の中、僕や文学くんのように従順な人間ばかりではないのだ。  どこかで恨みを買っている可能性もあって、僕はそんな生きかたはごめんである。できるだけ波風を立てないように生きていたい。  両親は僕の個性の芽を端からつんでいった。あれはいけない、これはいけない、ああするのがいい、こうするのがいい。  僕が興味をもった媒体にいちいち干渉して口を挟む。許されたのは低俗な印象を受けないコンテンツばかりだった。  音楽はクラシック、マンガも古典の名作、小説はもちろん文豪たちしか読むなと言われる。いま思えば『古き良き』という言葉を盲信しているふしがあった。
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