第一章

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 たしかにそれらの名作は優れているがゆえにこの現代まで残っているのだろうが、やはり古典は古典だ。それらを受けて、研鑽を重ねていった現代の作品群がその名作たちにかならずしも劣っていると言うつもりはない。  とっつきやすいかとっつきづらいかの差なのだろう。そしてとっつきづらいながらも現代で受け入れられているぶん、やはり往年の名作はすばらしいものである。  などと、頭のなかであっても、過去の名作も持ちあげながら現代の作品のよさを取りたてるような論法を展開している自分には、やはり波風を立てない考えかたが染みついている。  男子生徒らから距離を置いているいまならそれでよいだろうが、また仲良くしはじめればそこにあるのはグループという単位の集まりである。  そこではかならずどこかに属して、ふらふらと身軽によそへ移ったりしないのがだいじである。  こちらを立てればあちらが立たなくなって、両方を立てようとするのはルール違反なのだろう。  それからはなんらたわいのない話題に移り、僕と文学くんは相槌を打つだけになった。  二階建ての一軒家は時代錯誤に古めかしい。ツタがからみ、明らかに周囲から浮いている。  大人の歩幅で十数歩は離れた隣家はいかにも現代風で、向こうからこちらに歩いてくるとタイムスリップした気分になる。
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