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「ただいま」
誰ともなしに口にしながらたたきで靴を脱いだ。いったん二階の自室で着替えてから飲み物でも飲もうかと居間に向かう。階段を下りて数歩で僕は今朝と同様に硬直した。
ナソーさんが篝のジャージを着て座っていた。サイズが合わないのかそでとすそをあましながら、壁に背を預けて両足を投げ出している姿はうつろな目もあいまって生気を感じさせない。
ふと、まばたきをした。
訂正、とりあえず生きているのは見て取れた。
「よう、女の子がそんなに珍しいかよ。じろじろ見くさってからに」
いつの間に近づいてきたのか背後で篝がじっとりした半眼を作っていた。
「ち、違う。どんなことを考えているのかって思っただけだ」
「何も考えてないんだろ、思考力があるようには思えない。日中に接してみてわかったが、何をするにもあるていどはこちらがうながしてやらなきゃできないみたいだ。難儀も難儀だよ」
「その割によくジャージに着替えたな」
「汚れたもんはしかたない。食事を摂るには摂るがどうしてもこぼしたからな。本当によ、何をどうしたらあんな状態になるんだろうな……というかあんな状態なのに携帯は絶対に離そうとしないんだぞ? どれだけだいじなんだって話だよ」
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