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今朝、携帯を手にして口にされたセリフを思い出す。『わたし、ナソーさん。いま、あなたの前にいるの』自ら行動したのがあれっきりなところから察するにやはり携帯は何か、ナソーさんのなかで重要なものなんだろうか。
「携帯にかけてみるか」
「ああ、ワタシもそうしようかとは思ったけど、下手に刺激して何が起こるかわからなかったし慎んでいたところだよ」
「ああ、暴れられても困るからな。いまはふたりがかりだしなんとかなるだろう、とにかく、電話をかけてみよう」
「よし」「…………」「…………?」「いや、電話番号は何番だ」
「ワタシが知るかよ」
「調べてもいなかったのか!」
「うるせーな、大変だったんだぞ!」
「わかったわかった、行けばいいんだろ行けば! もう、僕が手を貸すのはここまでだからな! わけのわからん人間にかかずらっている時間はない!」
「はいはい、とにかく番号を見てこいっての」
「わかったよ! ちょっと待っていろ」
この騒ぎにもナソーさんはいっさい反応を示さない。ときおりまばたきは続けていて、僕は携帯を取り出しながらその姿に近づく。
「はい、ちょっと失礼するよ」
長いまつげは伏せられていて視線はぼうっと床の一点に注がれている。僕はたくさんの携帯電話のひとつである今朝、彼女が使っていたものに手を伸ばす。
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