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 そのとき、チャイムが客の来店を知らせ、奥園は姿勢を正す。 「いらっしゃいませ!」「らしゃせー」  四之葉市駅の目の前にそのコンビニはあった。これは大学の講義を終えてからの数時間の浪費である。  将来、きっと無駄だったと頭を抱えることになるとなかば確信しながらも奥園は辞めると言い出せずにいた。両親は頭が固く、こうだと思ったら頑として意見を曲げない。  奥園の祖父の代で一発当てて、そのおこぼれで生活しているような家であって、ジンクスに傾倒し、神の加護を信じている。  その上に風水に振り回され、お守りに埋もれながら、いまの幸運を逃さんがために願かけを続けていて、どこまでも神頼みで奥園家は回っていた。  奥園自身はそこまで神を信じてはいない。奥園ら家族は一度、神に裏切られているのだ。  それでもコネというものには恵まれていて、大学の講義を休みがちな奥園であっても単位だけはしっかりと与えられていた。  このまま行けば中小企業の女性社員として収まるであろうことは目に見えている。そんな将来を別段、いやだとは感じていない。  漠然と手放したくないものはいくつかあって、しかし望むものは思いつかない。それは世界的に見ればきわめて幸運なことだと思い至り、荒唐無稽ながらもとりあえず世界平和を望むことにした。――何か行動を起こすかはさておく。
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