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第一章
「『オレはアナタをタスケルことにしシャ!』」しゃくーん。
一年ほど前の光景を夢にみた。そこで耳にしたセリフをそっくりそのまま模倣する。目もとに力を込めてキメた表情を作りつつもだらしない笑みを浮かべて、仕上げに顎を突きだす。完璧だ。
そのまま視線を向けた先で、眠そうな目をこすりながら着古したジャージの袖に腕を通した女は口をひらく。座布団の上で据わりのよい位置をさがしながら言う。
「なんの真似だよ」
「どこからどうみてもアシナガだろ」
「似てない」容赦のない指摘にかぶせるように座卓を囲むオリジナルが口を挟む。
「いつおれがそんなにしゃくれたよ! というかそのセリフはしらふで聞くと恥ずかしいからやめなさい。ほら、おれ、あのとき完全に酔ってたから自分に。べろんべろんだったから自分に!」
「『ベロンベロンだったからジブンに!』」しゃくくーん。
「似せる気ないだろ! というか朝食が冷める! 合掌しろ合掌!」
ばん、と打ち合わせられた手に続いて僕と隣の女も合掌する。
いただきます、と声をそろえた。
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