第一章

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 朝食風景である。頭数は三で、それはこの家に住む人数と一致する。大黒柱であるところの長身の男は一之木恭二(いちのぎきょうじ)と名乗った。  脚が長いから僕はこの男をアシナガと呼んでいる。背広を着ているアシナガは、四角い座卓の向かって右手の一辺にて箸を取った。  これから仕事に出かけるのだ。海藻類を連想するパーマネントヘアーは今日も変わらずうねりを帯びる。  冷蔵庫に貼られた分担表は大小二つの円を重ねた作りで、中心から三分割の線がのび、外側には『掃除』『洗濯』『炊事』とあり、内側の円にはそれぞれ『おれ』『ガリさん』『ネリー』と書かれていた。  今週の炊事当番はガリさんこと篝袋緒(かがりふくろお)である。料理の腕はちゃんと作りさえすれば上手なんだろうが、どうにもちゃんと作る気がないようだ。  おいしいと思えるのは四回に一回くらいだ。今日なんかはカップ麺が食卓に三つならんだだけである。  アシナガから不満のひとつもこぼれないのは自らが炊事当番の際も似たようなことをしているからで、僕もまた同様なので口をつぐんでいる。  もっともアシナガは料理をすれば、どこで修行したんだというぐらいおいしい。
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