第一章

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「おいおい頼むぜガリさんよう」  アシナガがその背に投げかけた言葉に、篝は手をあげて応じつつ去った。 「なんだ、何か用事でも頼んだのか」 「じきにわかる」  ――本当にすぐにわかった。  僕が歯を磨いて通学鞄を片手に玄関に着いたとき、篝はそこで爪を切っていた。  たたきには僕のスニーカーが置いてあり、その手前にはご丁寧にもビニールテープで線が引かれている。その線の内側で、足の爪を切っていた。 「……何をしている」  篝は爪を切る手を止めないままに、こちらを見もせず答える。 「おまえの靴に切った爪を入れるバイト。ひとかけ入るごとにいくらかもらえる」 「雇用主はどこだ!」  僕の声に背後から、待機していたかのようなタイミングでアシナガが出てきた。 「どうかしましたか?」 「これはいったいどういうことだ」 「そろそろ出会ってからちょうど一年が経つな。あなたももう思春期のど真ん中みたいだから、そんな少年との接しかたを模索しているんだよ。どうしたらいい?」 「本人にたずねるなよ! あとこれは絶対に間違ってるからな!」 「またまたー」 「いや嘘じゃない」パチンパチンと音は続いている。「というかいつまでやってんだ!」
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