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「おいおい頼むぜガリさんよう」
アシナガがその背に投げかけた言葉に、篝は手をあげて応じつつ去った。
「なんだ、何か用事でも頼んだのか」
「じきにわかる」
――本当にすぐにわかった。
僕が歯を磨いて通学鞄を片手に玄関に着いたとき、篝はそこで爪を切っていた。
たたきには僕のスニーカーが置いてあり、その手前にはご丁寧にもビニールテープで線が引かれている。その線の内側で、足の爪を切っていた。
「……何をしている」
篝は爪を切る手を止めないままに、こちらを見もせず答える。
「おまえの靴に切った爪を入れるバイト。ひとかけ入るごとにいくらかもらえる」
「雇用主はどこだ!」
僕の声に背後から、待機していたかのようなタイミングでアシナガが出てきた。
「どうかしましたか?」
「これはいったいどういうことだ」
「そろそろ出会ってからちょうど一年が経つな。あなたももう思春期のど真ん中みたいだから、そんな少年との接しかたを模索しているんだよ。どうしたらいい?」
「本人にたずねるなよ! あとこれは絶対に間違ってるからな!」
「またまたー」
「いや嘘じゃない」パチンパチンと音は続いている。「というかいつまでやってんだ!」
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