第1章

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上手くいっている。と思ったのは私だけだったのだろう。浮気がばれた後からはいつもの優しい妻から、私への不満、誹謗を繰り返す鬼のような存在に代わっていってしまった。浮気だけでもショックだったというのに、妻の激変は私の心にとどめをさしていたのだ。 妻と離婚してからはただ広いだけの空虚な家の中で過ごす日々が続いた。仕事は上司に話をしたところ、快く有休をもらえた。一か月の間、ただ自堕落に過ごし酒に溺れながら長いような短い夫婦生活の感傷に浸っていた。 離婚の手続きのゴタゴタで、いつの間にか忘れてしまっていた箱の存在をテレビの箱の中身を当てる。というバラエティ番組を見ているときに思い出した。 「あんなものさえなければ、こんなことにならなかったのに」 いや、いつかはなっていたのだろう。それでも、私はその現実が受け止めきれずに奇妙な箱に八つ当たりするしかなかった。気が付くと箱はリビングのテーブルの上に置かれていた。こんな場所に置いただろうか。 そう思いながらも、箱の穴の中を見てみる。そこには私のいない職場で私の離婚について同僚たちが話している風景だった。 同僚たちは次々に私に対して酷評を上げていく。それはとても辛辣で彼らは笑いの種のように私の辛い現実を笑顔で話していた。私は思わずその場で吐いてしまった。胃液とアルコールの匂いが部屋中に広がり鼻につく。 なんてものを見せるんだ。私は怒りのままに箱を壁にぶつけると、箱は壊れることなく床にたたきつけられた。私は妻だけでなく同僚たちも疑わなければならなくなってしまった。あんなもの見るんじゃなかった。 テーブルの上にあるビールを一気に口の中に注ぎ込む。なんなんだ全く。なんでこんな不快なものを見なければならないんだ。そう思っていると箱に付属していた手紙の文章を思い出した。 「これが真実で、これが現実なら死んだ方がよっぽどマシだろ」 怒気の混じった声で独り言を発する。会社に行く気力すら無くなってしまった。もし、私のことを笑い話にしていたとするなら、とてもじゃないが心が折れてしまう。なんとかして忘れるべきだろう。私はそう思いながら何も考えられなくなるまで酒を浴びるように飲むことにした。
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