第1章

4/6
前へ
/6ページ
次へ
いつの間にか眠ってしまっていたのだろうか。気が付くと部屋の中は暗くなっていた。今は何時くらいだろう。そう思いながら部屋の電気を点けると時刻は夜の11時になっていた。おぼつかない足取りで、私が一番最初に考えていたのは壁の下に転がっている箱だった。 奇妙でいて惹きつけられるあの箱はいったいなんだろう。ここにきて初めて箱そのものに好奇心が沸きはじめた。箱を拾いまじまじと眺めると、木製で出来た箱は釘などを使って板を箱にしたわけではなく四角い木を削って穴をくりぬいたように作られていた。 それならば本来、覗き穴に目を向けても中に映るのは暗がりなはずだろう。それなのに妻のことにしろ、同僚のことにしろ木の中からまるで未来や、現在の他の場所を覗いているみたいだった。それならば、いっそ宝くじの当選番号などもこの箱は知らせてくれるのではないか? そんな淡い期待を胸に箱の中に目をやる。箱には数字の羅列が並んでいた。 「やった! これで当選確実じゃないか?」 私は先ほどまでの辛さから一転して期待と興奮で胸がいっぱいになった。箱の中の数字をメモにとり、翌日には近くの宝くじ売り場で宝くじを買った。あの箱が本当に未来の現実や自分のいない場所の現実を知らせてくれるのだとしたら、この宝くじも確実に当選しているだろう。 私は久しぶりにワクワクした感覚を抑えきれずにいた。嫌なことがあろうとも、お金さえあればその辛さも少しは紛れることができる。 それから数週間が経ち、仕事に復帰しながらも同僚達とは距離をとる様になった。人の辛い体験を笑い話にするような奴らだ。関わるだけ無駄だろう。金を持つようになれば集りに来るかもしれない。 私の予感は的中した。いや、その予感すら箱をのぞいた結果だ。宝くじに当たったのをどこから聞きつけてきたのか、大金を目当てに同僚も元妻もやってくるようになった。 私は彼らを鼻で笑い、あしらうと彼らは元々の本性を見せて私に悪態をついて去っていった。 それからだった、私は人を信用できなくなってしまったのは。当然といえば当然だ。人の裏側にある見なくていい真実を見るようになったのだから。どんな聖人のような優しい人間でも、箱にその人の汚さを問えば残酷な現実を見ることになる。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加