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「そう。山を登っていくように作られていて、苔なんかも生えていて、とても古びているんだ。その石段を登っていくと、これまた古びた鳥居が見えて、その鳥居をくぐると、ボロボロの神社の境内だった。草もボーボー、タンポポなんかが生えまくっていてさ。とにかく、俺はそこでようやく立ち止まった」
「というと、その神社が?」
「目的地。その時になって、俺はようやくそう認識したんだ」
語部はそこで区切って、カバンから500mLペットボトルを出した。そうして、半分ほどあった中身を一気に飲み干した。
語部の額には、玉のような汗がにじみ出ていた。
「・・・話を続けよう。
ようやく石段を登り切った俺はそこでようやく、初めて自分の後ろを振り返ったんだ。ある程度山を登った高台から見えたのは、とても慣れ親しんだ景色だった」
「つまり、おまえのよく知っている景色ってこと?」
「いや、俺は知らないんだ」
「どういうこと?」
「俺自身は、その景色になんら見覚えは無かった。けれどなぜだろう。俺はその時、その景色をすごく慣れ親しんでいるように感じたんだ」
「つまり、その時のおまえはおまえであっておまえでなかった?」
「哲学的な言い方をすればそうなるんだろう。ともかく、景色をしばらく眺めていた俺は、ふと前を向いた。するとそこには、俺と同じ年齢くらいの少年が1人いた」
額の汗をグイッと拭いながら、なおも話を続ける語部。
「その少年を見た瞬間、俺はとても仲の良い親友と会っている気分になった。その少年のことを俺は知らないはずなのに。」
「さっきの景色と似たようなものか」
「そうだな。似ているというより、同じだと言えるかもしれない
俺は、その少年を見て安堵するとともに、とても心配になった。その少年がどこか遠くに行ってしまう、もう二度と会えない、そんな予感で不安になったんだ」
その時の心境を思い出したのか、語部の体が少し震えている。その肩をポンと叩いてやると、安心したように笑いかけてきた。
「・・・ありがとう。
さて、俺はその少年に掴みかかり、何かを一生懸命に叫んだ。懇願したと言っても良い。
だけど、少年はただ首を横に振るばかりで俺の話を聞いてくれなかった」
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