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「最終的に、俺の記憶からはその少年は最初から存在しなかったことになっているんだ。おそらく俺と少年は親友だったんだと思う。でも、今の話に出てきた事だけじゃない、もっと昔から少年と遊んだり話してきた記憶が、変な風に改ざんされていくんだ」
「改ざん? 忘れるんじゃなくてか?」
「ああ、忘れたのは神社であったことだけ。それ以外の記憶は、少年がいたところに別の何者かが代わりとして存在する。そんな風に書き換えられていくんだ」
「他のだれか? それを体の『おまえ』は?」
「気が付かない。知らないうちに記憶が変えられていくんだ。それに伴って、景色に感じていた違和感も次第に無くなっていくんだ」
「・・・・・・」
声が出ない。自分の記憶が変えられているのにそれに気が付かない? そんなの想像できない。
「石段を降りていくたびに、今ここにいる『俺』の視界はぼんやりと白くなっていく。
やがて、視界が完全に真っ白になって、何も見えないようになっていって――」
「そこで目が覚めた」
語部は、そう締めくくって、ボイスレコーダーのスイッチを自ら切った。
「・・・ちなみに、その夢を見たのは?」
「今朝の話だ」
「そうか・・・」
今日一番長い沈黙。
僕も語部も、しばらく口を開くどころか身じろぎ1つすることはなかった。
数分ほど沈黙が続いた後、語部が立ち上がった。
「じゃあ、帰るか」
ニヤリと笑う語部に、僕はニヤリと笑い返した。
「そうだね。帰ろう」
時刻はまもなく午後六時になろうとしていた。
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