第0章-1話「大体こんな感じでやっていきます」

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「ご名答。机の引き出しを開けてみろ」  開けてみる。  空だった。 「何もないんだけど?」 「うむ。何も入れていないからな」 「開けさせた意味は!?」 「あるわけないだろう」  こうもハッキリと言い切られると、むしろ清々しく感じてしまうのはなぜだろう。 「よし、原稿が完成した」  語部がペンを置く。 「へえ? どんな内容なの?」 「気になるか?」 「まあ、自分の所属している部活だしね」 「よし、では読んでやろう」  語部はやけに自信満々だ。それだけ自信があるということだろう。これは楽しみだ。  語部は息を吸うと、厳かに口を開いた。 「国破れて山河在り」 「ちょっと待て」 「城春にして草木深し」 「ストップ! ストーップ! ストーーーーップ!!」 「【ストップ】の三段活用か?」 「そんなものはない! いいから僕の話を聞け!」  全力で制止すると、語部は不満気に僕を見てきた。 「どうした」 「なんで『春望』!?」 「『黄鶴樓送孟浩然之廣陵』の方が良かったか?」 「なんで漢文をチョイスするの!?」 「名作だろう」 「たしかに名作だよ、教科書に載るくらいは! でも部活動紹介で読む意味はなんなの!?」 「意味なんてあるわけないだろう」 「なんでも言い切れば許されるわけじゃないからね!?」  血相を変えてまくしたてる僕を顔色1つ変えずにながめる語部は「まあ落ち着け」と静止した。 「机の引き出しを開けてみろ」 「何も入ってないだろうがあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「なぜバレた」 「さっき開けさせたの誰だと思ってるの!?」 「俺だ」 「分かってるならやるなよおおおおぉぉぉぉぉ・・・ゲホッゲホッ」 叫んでいる途中で咳き込む。叫びっぱなしでのどを痛めたみたいだ。 「ほれ、お茶」  語部が渡してきたペットボトルのお茶を飲む。 「あ、ありがとう」 「うむ、もっと敬え」 「ここぞとばかりに威張るな」  そもそも誰が原因でこうなったと思ってるんだか。 「お、もうこんな時間か」  語部が壁にかかった時計を見ながらつぶやく。僕も時計を見ると、もうすぐ4時になるところだった。 「そろそろ帰るか」 「うん、そうだね」  活動日とはいえ、今は春休み。他の部員も来ないし、このまま部室や学校に長居する意味はあまりないだろう。  部室から出て鍵を閉めている語部の背中に話しかける。
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