お願いですから何か喋ってください!

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 黄金郷を彷彿させられる、貴賓ある大講堂。魔球ドームが三十個入るほどの広さと大きさを誇るこの大講堂には、大理石や純度の高いブラックマテリアル鉱石から造られるテーブルや昇段がある。  本来ならば僕なんかが立っていて良い場所ではない。  この大講堂『ニチャリオン』の最奥にある、全体を見わせる講壇から重低音の声が発せられる。 「では、次に被告の弁護人、証言を御願いします」  貫禄のある裁判官から、僕を呼び声が聞こえた。彼が醸し出す雰囲気は幾千の山場を潜り抜けた戦士と同じものを感じる。  弁護士として、裁判官の呼び掛けには直ぐに答えなければならない。それが、相手に舐められないようにも、自身を鼓舞するためにも、弁護士としての定石だ。  だが、僕は即座に応答出来なかった。喉は渇き、背には冷や汗が滝の如く流れる。会場に数千人、映像電波魔具を通して数億人の民が、僕に視線を向けているのだ。  帝国専属弁護士見習いも卒業できていない僕には、その事実だけで真っ直ぐ立つことすら儘ならない。    怖い。恐い。  きっと僕は嘲笑の的になっているだろう。  一秒一刻でも早く、この場からこの戦地から去りたいと願ってしまう。  それでも、足は進まない。  脳裏に浮かび上がる彼女の笑顔と、自身に誓った約束を守るためには、こんな処で逃げていては話にならないからだ。   「で、では。被告人、リチャル=マグナイヤーの弁護人を勤めます、帝国専属弁護士見習い、 国助信治から被告人に幾つか質問させて頂きます」  一言一句、噛まないように、何万回と練習した文章を震えながらではあるが、言い切る。  僕は弁護すると決意した相手、白髪金眼の少女、リチャル=マグナイヤーさんに目線を合わせ、質問というなの彼女を守る盾を作り上げなければならない。    リチャルさん! 予定通りお願いしますよ!    心中で祈りながら、毅然を装い、話しかける。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加