≪栄治力投す≫

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 正投手の負傷により、同志社高等商業との練習試合で栄治は先発を任されたのである。  栄治にとって、京都商業編入後の初登板と言う訳だ。  練習試合とは言え、栄治の速球と得意の変化球ドロップが冴え渡り、同志社高商の打線を全くものともせずに翻弄、京都商業は勝利を修めた。  これ以降、栄治が正投手に定着すると、無名だった京都商業の名は次第に京都府内で知れ渡るようになり、一躍優勝候補の一角に数えられるまでとなった。  そして臨んだ翌年、昭和七(一九三二)年の大会予選だったが、京都商業は初戦の伏見商を12-0と圧倒的に下すも、二回戦の京都師範学校には6-0と惨敗を喫してしまう。  優勝候補と言われても、所詮は栄治の突出した投手力による一過性のものであって、チーム全体がまだまだそのレベルには達していなかったと言うべきであろう。  現に京都商業は、下位レベルの相手には遺憾なくその強さを発揮するのだが、実力が拮抗、若しくはそれ以上の相手には意外な程に呆気なく負けてしまう。  謂わば、京都商業は栄治の力量のみに頼ったチームだった。  それでも、栄治はエースとして力の限り投げ続けた。
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