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「シャチ? それが何か」
「ううん、いい」
そっか、忘れちゃったのか。
三浦のつぶやきが聞こえた気がして、慎一郎は問い返そうとした。
「じゃ、武先生のとこ行ってくるから。呼ばれてるんだ」三浦は片手を上げてその場を去る。
結局、収穫はゼロか。
慎一郎はポケットを探り、煙草とライターを手にした。
三浦の真意は結局のところわからないまま。
息子のこと、息子の父親のこと。
母子と関わりを持つ学者のこと。
尾上君、覚えてる? と三浦が問うシャチのこと。
何のことだ。
ポケットを探り、出した煙草に火を点け、一服した。
煙はあっという間に四散する。紫煙の彼方に、風貌に似合わぬ大きなぬいぐるみを抱えたゼカライアセンの姿が浮かんだ。
慎一郎の前と三浦ではまるで態度が違っている。
そう、彼女を見つめる瞳は、愛する女へ向けるものだ。
頼む、三浦君。
これ以上、僕に君の息子を傷付けるようなことは言わさないでくれ。
真実であったとしても。
慎一郎は時計に目をやる。針は正午過ぎを指していた。
その時だ。
室内の内線電話が鳴る。
かけてきた相手は武だった。
「君のとこの部屋、貸してくれる?」
「はい、どうぞ」
言うが早いか、颯爽と武が現れる。
背後に、三浦と宗像を引き連れていた。
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