一章

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 ボサボサの黒髪に色の濃いサングラスという、胡散臭さ満点の出で立ち。『禁煙』の貼り紙を完全に無視してタバコをくわえる彼は、奈々子に軽く会釈してから、先程よりも小さな声で少年に続ける。 「そろそろ船出るぞ。準備しとけ」 「了解」  一方の少年(サキトというらしい)は、機械的に応じて謎のケースを背負った。しぼんだ旅行鞄を掴むと、奈々子を一瞥すらせず部屋を出ていく。  自動ドアが閉まる直前まで、二人の会話が遠ざかりながらも耳に届く。 「本当にそっちでいいのか」 「いいに決まってんだろ? パートナーを信じろっての」 「……在来線と新幹線の乗り場を間違えたヤツが言うな」 「悪いのは案内板の書き方だろ。途中で察したのに何も言わねぇお前もお前だし、そもそも……」  と、ここでドアが閉まった。館内アナウンスが、彼らが乗るであろう船の発着時刻を告げる。奈々子の故郷から、三つ南へ行った島に向かおうとしているようだ。  しかし、怒りの矛先を失った彼女に、気にするつもりなどない。 「……ったく」  小さく吐き捨てて、ベンチに乱暴に腰を下ろす。これ以上あの無表情を思い出したら、何も食べていないのに胃もたれしてしまいそうだ。頭の中をリセットして、理科の参考書を開く。  その二秒後、 『まもなく、二番ゲートに、一六時三五分発、初島行が参ります。ご乗船のお客様は……』  ページ探しをアナウンスに邪魔されて舌打ちしたのは、言うまでもない。  ***
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