一章

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 ***  人口およそ二百人。東京から一時間の沖合に、初島はぽつんと浮かんでいる。  住んでいるのは、土着の漁師と役場の人間、そして地主のみ。たまに本土から渡ってくる釣り人の他には、外から来る人間など滅多にいない。祖母と母が始めた民宿が、離れを少し改造しただけの小さなものに納まっているのも、それが所以であろう。  一日に五本のフェリー以外、外界との関係を持たない辺境。本土の住人にはその程度にしか思われていないだろうが、近くの海に海底資源が眠っている可能性が示唆されたことで、にわかに注目を集めているらしい。  桟橋に降り立つ。『海底資源開発 断固反対』と大きく書かれたのぼりが、港のあちこちを赤く埋めていた。 「おう、奈々子ちゃん」 「こんにちは。まだ底曳きしないんですね」 「六月になんねぇと。雑魚でも獲れたら、また持ってってやらぁ」 「ありがとうございます!」  近所の漁師と言葉を交わし、雑木林の真ん中の道を進む。上り坂の終点に見えてきたのは、木々に囲まれた小さな民宿、はまゆり荘。四部屋しかない平屋であり、それを横目に通り過ぎた先にある普通の一軒家が、奈々子たちが暮らす家だ。 「ただいま~」  建てつけの悪い戸をこじ開けるように開き、薄暗い廊下に声を放る。 「おかえりなさい」  まもなく現れたのは、奈々子の母にして、はまゆり荘の女将・百合子だ。今朝と変わらない朗らかな笑顔の下には、ユリの柄が入った渋いエプロン。宿泊客の食事の仕込みをしていた証拠だ。 「お客さん?」 「そうなのよ~。奈々子が出てすぐに電話があってね、今夜泊まりたいって」 「釣りにしては珍しい時期だね」 「どうせ海底資源の関係だろ」  話に割り込んできた声は、非常に機嫌が悪い。見ると、百合子の後ろから祖母の華がやって来るところだった
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