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もっとも、それより目を引くのは、肘の横に立てかけられた細長い物体だ。剣道部員が持つ竹刀袋に似ているが、所々が金属で補強されていたり、同じく金属製の錠前まで付いていたりと、やけに物々しい。服装を含め、それ以外の何もかもが普通なので、余計に浮いて見えてしまう。
まさか本物の刀が入っているのだろうか。まじまじと見つめていると、
「……?」
視線に気づいたのか、少年も奈々子の方に顔を向けた。何ということもない黒い瞳だが、感情を読み取れない。
まるで人形のような男だ、などと思いながらも、人見知りしない奈々子は笑顔を見せる。
「こんにちは。どこかに旅行?」
「…………」
しかし、少年は答えない。しばらく奈々子の顔を見つめた後、海に視線を戻す。
(うわ、不愛想……)
失礼な態度に辟易したが、そういう人間もいるだろう。肩をすくめて、彼の背後のベンチに腰かける。
続けて、理科の参考書を取り出そうと鞄を開けるが、
「…………ない」
「え?」
少年が何か言ったため、手を止めて顔を上げた。聞き返されたにもかかわらず、彼は海の方を向いたまま、肩越しに言葉を放ってくる。
「お前に話す必要はない」
「…………」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
理解できたのは次の一瞬。さらに次の一瞬で、煮え湯を一気に注ぎ込まれたような熱が頭に回った。不快感が胸の内側で騒ぎ出す。
「あのねぇ……!」
「咲人~」
言い返そうとした矢先、待合室の扉が開き、別の男が顔を出した。
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