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 冬でも葉を落とさない木立の間から二階建ての火葬場の建物が見えて、総ガラス張りの窓の向こうには黒い喪服を着た人達がちらほらと目に映った。  ああやって自分と血の繋がっていた者が灰になるのを待つなんて、どんな気持ちなのだろう。  そんなことを思っていると、今しがた自分が歩いてきた石畳の道を誰かが歩いてくる姿が見えた。その人物は一人だけで、悠希と同じように全身が真っ黒だった。  当たり前だな、火葬場なのだから。  悠希がまた火葬場の建物へと視線を移した時だった。 「藤岡さん」  思いがけない声色に、はっと顔を向けた。それはこちらに近づいて来る、黒ずくめの人物から発せられていた。 「藤岡悠希さん、ですよね」  その男の姿に今度は震えがくる。  あり得ない、そんなこと。  悠希よりも頭一つ分高い背丈に広い肩。黒の喪服をすっきりと着こなしてはいるが、その胸板の厚みが分かる。短めの黒髪の下には意思の強そうな眉とすっと伸びた鼻梁。笑みも無く軽く結ばれた薄い唇。  そして何よりも自分を見つめる二重の目は、軟らかさの中にも悠希の体を貫きそうな力が宿っていた。しっかりとした輪郭の精悍な顔から目が離せなくなる。  嘘だ。あり得ない。だって、あの人は今――。  紅蓮の焔の中にいるのだから……。 「お久し振りです。藤岡さん」  もう一度かけられた声に悠希は少しの違いを感じた。あの人よりも張りのある若い声。 「……憶えていませんか? 俺は、」 「あ、ああ。憶えているよ、各務彰吾(かがみしょうご)くん」  悠希が口にした名前に、目の前の青年が少し苦笑いをしたような気がした。その姿を良く見ると、少しずつ彼との違いが分かる。背は彼よりも高いし体躯も彼よりがっしりとしている。そして、その双眸も彼よりも若干きつく感じられた。  青年がさらに悠希へと近づいてきた。その黒いスーツには、雨が上がり晴れ間が出たのか、柔らかな木漏れ日が仄白く光を散らしていた。  目の前に立った青年を悠希は少し見上げる。視線が合うと青年は、ふっと力が抜けたように笑みを漏らした。
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