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窓を叩く雨の音でやっと眠れそうだった頭が覚醒した。暗闇にも馴れてしまった視線を空間へと向けて、ふぅと溜め息をついた。
室内には激しく降りしきる雨の音が響く。そして寝返りを打ったシーツの衣擦れの音も。
――何時だ?
藤岡悠希(ふじおかはるき)はベッド脇のサイドテーブルに置いてあるスマートフォンを探り寄せて、明るく灯った液晶画面を見た。
午前二時。先ほど確認した時は一時半だった。
まだ、三十分も経っていないのか。
ここのところ眠りが浅くて困る。
別に昼間に眠気が来ることは今のところは無いのだが、このまま十分な睡眠が取れなくなると、近い内に仕事に支障をきたすだろう。
また、睡眠導入剤の世話になるしか……。
そう思っていた時、不意に手の中のスマートフォンが甲高い電子音を響かせた。
電話? 誰だ、こんな時間に。
液晶画面に表示されているのは、見たことの無い電話番号だ。非通知では無いと言うことは、こちらに自分のことが知られても良いのだろう。
普段ならどこからか分からない電話など無視を決め込むのだが、なぜか今夜は外の雨の音が耳についてしまい、つい、悠希はその電話に出てしまった。
「――、もしもし?」
耳にあてたスマートフォンの向こうで、ハッと息を呑むような音が聞こえた。
「あの……、藤岡?」
探るような小さな声がする。だが、悠希にはなぜか聞き覚えがあった。
「……そうですが」
応えた悠希の声にスマートフォンの向こう側の緊張が一気に解けた様な気がした。
「あのさ、俺、オオタ。前の会社の同期の。覚えてる?」
「……ああ、太田か。覚えているよ、久し振りだな」
幾分、うろ覚えになっている同僚の顔を思い出してみる。
あの頃、幾人かの同期入社はいたが、顔を思い出せるのはほんの二、三人だった。
「こんな時間に電話してごめんな、藤岡」
「いや、起きていたから別に良いけれど。でもなぜ、この番号が分かったんだ?」
あの街を出る時に、悠希はあそこに繋がる全てのものは捨てて行ったはずだった。なのに、どうして……。
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