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 悠希は祭壇から少し横へずれて、後ろの参列者へと焼香台の前を明け渡すと、残された遺族の前に進み出た。横一列に並ぶ遺族をさっと眺める。故人の両親だろうか、手前には年老いた男性と女性。その横の和服の女性が彼の妻だ。  こんな状況で彼女の顔を拝めるとは思いもしなかった。あの頃は、この青白い表情の女を疎ましくも思っていたのに。  そして、彼の残した子供達。二人とも項垂れたままで、特に女の子のほうは今にもその場に崩れ落ちそうで、親戚の女性に肩を支えられている。  悠希は彼らに一礼をした。彼らも頭を下げてくれ、上体を起こそうとした時だった。  ――なんだ?  先ほど感じた射すような視線。さっきよりもはっきりと感じる視線の先を頭を上げながら追っていくと……。  ――な……、んだ?  辿った先には彼に良く似た青年の瞳があった。笑みもなく、また哀しんでいる様子もない青年の目は、悠希をきつく見つめて離れようとしない。  思わずその瞳に捕らえられて心臓が大きく打った。金縛りにあったようにそこから足が動かない。だが、直ぐに後の弔問客が焼香を終えて、悠希は押し出されるように彼らの前から離れていった。  葬儀も終わり、いよいよ出棺の時を迎えた。葬儀の前に降りだした雨は少しその雨脚を強めている。  悠希と太田は、葬儀社が貸し出してくれたビニール傘に二人で収まって、彼の棺が出てくるのを待っていた。  他の二人の元同僚は故人の棺を運ぶらしい。悠希も誘われたが、それは丁重に断った。 「藤岡、このあとどうするんだ?」  冷たい雨に震えながら太田が悠希に聞いてくる。出棺を見送れば今日の予定はすべて終わる。彼が小さな骨になるのを見届けるのは親族だけだ。 「終わり次第、東京に戻るよ」 「そうか。なあ、もし時間があるのなら、山本や鈴木と四人でどこかで一服しないか。各務部長を偲んで、思い出話でもしよう」  悠希は隣の恰幅の良い男を一瞥した。  こいつに伝えられる、あの人との思い出話などあるわけがない。  全ては彼と……。  俺との二人だけの秘め事だったのだから。
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