だからなに

3/3
前へ
/6ページ
次へ
私の学校には図書館がある。 今どき無い所は珍しいか。 今まで利用した事がなかったが、気分転換にと今日は利用させていただく事にする。 勉強するのではなく、趣味の時間として利用させてもらおう。 少しくらい息抜きしたっていいじゃないか、人間だもの。と開き直る。 中に入ると思ったより人がいない事に驚いたが、そういえばダンス部が中庭で発表会を催している事を思い出した。だから私は1人で帰らざるを得なくなってしまったのだ。 向かって左側。場所が広く取られているのは文学コーナーだ。 とりあえずふらふらと本を探し、めぼしいものを取ってみる。 これは。 気になる本を見つけたが、身長的な問題で届かない。 ーーーもうちょっと。 うんと背伸びして指先がそれに触れた。 ふわりとなんだかいい香りがして、私の指先の遥か上を手が掠める。 そしてさっき触れたものを取り出して、私にそっと差し出す。 「はい、これだよね?」 「あ、ありがとうございます」 優しげな雰囲気の人だった。 さらさらと黒い髪が風に揺れる。 窓が開いていることに、たった今気がついた。 「もし頭に落ちちゃったら危ないから、こういうときは誰か呼んでね」 「すいません」 恥ずかしい。一生懸命頑張っている所を見られていたのだろうか。 「これからは気をつけてね」 それだけ言って踵を返した彼は、ふと足を止めてくるりと振り返った。 「僕もその人好きだよ。学生って文武両道とか忙しいけど、読書するのも大切だよね。頑張って」 そして今度こそこの場を立ち去って、私だけが残された。 あの瞬間、世界が意思を持って色づいた。 ああ、親愛なる友人よ。 今日で私は君との同盟を破棄する。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加