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私の学校には図書館がある。
今どき無い所は珍しいか。
今まで利用した事がなかったが、気分転換にと今日は利用させていただく事にする。
勉強するのではなく、趣味の時間として利用させてもらおう。
少しくらい息抜きしたっていいじゃないか、人間だもの。と開き直る。
中に入ると思ったより人がいない事に驚いたが、そういえばダンス部が中庭で発表会を催している事を思い出した。だから私は1人で帰らざるを得なくなってしまったのだ。
向かって左側。場所が広く取られているのは文学コーナーだ。
とりあえずふらふらと本を探し、めぼしいものを取ってみる。
これは。
気になる本を見つけたが、身長的な問題で届かない。
ーーーもうちょっと。
うんと背伸びして指先がそれに触れた。
ふわりとなんだかいい香りがして、私の指先の遥か上を手が掠める。
そしてさっき触れたものを取り出して、私にそっと差し出す。
「はい、これだよね?」
「あ、ありがとうございます」
優しげな雰囲気の人だった。
さらさらと黒い髪が風に揺れる。
窓が開いていることに、たった今気がついた。
「もし頭に落ちちゃったら危ないから、こういうときは誰か呼んでね」
「すいません」
恥ずかしい。一生懸命頑張っている所を見られていたのだろうか。
「これからは気をつけてね」
それだけ言って踵を返した彼は、ふと足を止めてくるりと振り返った。
「僕もその人好きだよ。学生って文武両道とか忙しいけど、読書するのも大切だよね。頑張って」
そして今度こそこの場を立ち去って、私だけが残された。
あの瞬間、世界が意思を持って色づいた。
ああ、親愛なる友人よ。
今日で私は君との同盟を破棄する。
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