気付く

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いつも朝、電車で見かける人がいる。 私服で鞄を持って、時々座っているけれど大抵は吊り革に掴まっている。 わたしはそれを遠くから見て、それで終わり。 発展もなにもない、つまらない話。 世界はわたし中心で回ってなんていないから、彼の隣には女の人がいる。 世界はわたしが主人公の物語なんかじゃないから、彼は彼女に恋してる。 例えわたしが主人公だったとしても、何かを起こそうという気はないから結局彼女の勝ち。 戦っているわけではないのだけれど。 そうやって張り合って生きていかないと、わたしは息が出来ない。 息抜きは大事。それがどんなにつまらない事でも。 「カコ、今日はバス使わないの?」 「なんか、そういう気分じゃない」 幼馴染みに断って道路を渡る。バス停とは反対方向だ。 今から走ればまだ間に合う。 でも、今日はなんだか歩きたい気分なんだ。 「暇だからついてってあげる」 「なにそれ。何様のつもりだし」 「幼馴染み様だよ」 幼馴染み様は珍しく、反論せずに隣を歩き出した。 シャッターの閉まっているお店を通り過ぎて、時折自転車やサラリーマンに抜かされながら歩みを進める。 隣で笑う幼馴染み様は、多分わたしの感情に気付いている。 だから何も言わなかったのだろう。 これだから、君は。 「マコちゃんて優しいよね」 「唐突になに?気持ち悪いんだけど」 「やっぱ今の取り消し」 持っていた鞄で幼馴染み様を軽くぶん殴って歩き出す。 いつか、気付いてくれればいい。 わたしがまだ君を好きでいるうちに。 なんて都合のいい事。 今度は実るように気持ちに向き合ってみようか。
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