コタエアワセ

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「それかー、今のこの世界は本当の世界じゃなくて、キコたちは本当は本の中の世界で生きてるのに、それを知らなくて、ここが本当の世界だと思ってるとか。じゃなかったら、人間は実はみーんなオモチャで、本当は別の誰かが遊んでるだけなのに、キコたちがそれに気づいてないとか」  聞きたくなかった。今すぐ耳を塞ぎたかった。  滔々とキコが話す内容は、子供がたいてい一度は考えるような他愛のない妄想で空想なのかもしれないけれど、気持ちが悪かった。  28年前の、7歳の私に向かって母が憤った理由が、今ようやくわかった気がした。 「ねぇ……ママは、本当にキコのママ?」  娘の言葉と瞳が、私の身体を縛り付ける。  今、私は28年前の母と同じように、「変なことを言わないで!」そう叫んで自室にこもってしまいたい衝動に駆られている。  だけど、どうしても出来ないでいた。  もし、眠った私の身体に、ネジがあったら?  それをキコが回してしまったら?  私はあの時の母のように、倒れてしまうのだろうか?  もしかしたら、死んでしまうのだろうか?  世界の本当の姿なんてものを疑ったりしたから、こんな目に合うのだろうか。   「ねぇ、ママ……教えてよ」  真実を求める娘の瞳は強く輝いて、その問いの答えを探すことをとっくに諦めたまま生きてきた私は、今さらながら世界の深淵に恐怖した。 (了)
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