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ちょっとだけ心を誤魔化して、バレンタインと思って読んでくれると嬉しいです。
凄い雑な絵なのであげるか悩んだのですが、こちらの方が見やすいので。
***バレンタイン当日、ティゼルフ家***
今日はバレンタインデー。
世の恋人たちは甘い時を過ごしている。
それは実の兄も変わらずで、朝から早々と出かけてしまった。
きっと彼女に会いに行ったのだろう、キラキラしたら瞳で駆けて行った。
「ふぁ……」
もう一度言う。
今日はバレンタインデー。
だけどこの場にいる少女と少年は、二人きりにも関わらず。
普段と何も変わらない状況を送っていた。
「こら、ソファで寝ません」
そう言う少女は寝かけた少年の顔を突きながら、テレビの音量を少しだけ上げた。
「んー、なんか眠くて……」
ぼんやりと返す少年は確かに眠そうで、少女はむっと口を噤んだ。
人の家でリラックスしすぎでは?
寝られてしまったら、折角遊びに来たのに。
一人ぼっちになっちゃう、寂しい。
そんなことは口が裂けても言えないから、黙って少年の体を起こす。
少年は伸びをしながら欠伸をして、さながら猫のようであった。
「あ、そうそう」
少女はパタパタとキッチンに向かうと、一つの小さな紙袋を持って帰ってくる。
ブルーのリボンが見えるそれは、勿論バレンタインの贈り物だ。
「はい、ハッピーバレンタイン」
ご存知の通り気持ちです。
そう言えば眠そうだった彼も一応立ち上がって、両手で受け取る。
こういうところは育ちが良い、としか言えない。
「今年は食べやすいクッキーにしました。去年からの反省です」
大量に渡したのをまだ気にしてるらしい少女は、毎年うんうん唸って考える。
何が好きかな、何が食べやすいかな。
だって、彼、全部食べるんだもの。
あの馬鹿みたいな量だって、チョコフォンデュにしたり。
カレーがチョコに見えたりするくらい、食べ続けちゃうんだもの。
少年はよく食べるから、食べやすくて、胃もたれしなくて、それでいて量食べれるもの。
ってか考えたら限られてきて、少女は優しい顔つきで毎年唸る。
「あ、ありがと」
少しだけ気まずい空間が訪れて、心音が一気に加速する。
鞄の横に置いてしまおうとする彼に、待って、待ってと心の中で語りかける。
待って、あとひとつ、まだひとつ。
どうしても貰ってほしいものがあるの。
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