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金子@里見拓
【チューから始まる恋】
突然の豪雨だった。
予報になかった土砂降りで、
道行く人々は皆、傘を持っていない。
馴染みの喫茶店の軒下で濡れ鼠になった彼女を見つけた時、
僕は天に感謝した。
とうとうこの日が来たのだ。
やってやる。
やってやるぞ。
優しく声をかけて、家に誘う。
美味しい食事をご馳走して、
イイカンジになったところで抱きしめて。
目覚めても、彼女は僕の腕の中。
交際期間は三日もあれば十分かな。
そして結婚。ラブラブ生活。
そんな展開を夢見て。
よし、いくぜ、
まずはチューからだ!
僕は水たまりを避けながら、
雨の中を駆け抜けて、
雨宿りしている彼女の横に並び、
描き続けたシナリオをスタートする。
「チュー(こんにちは)」
「チュウ?(あなたは?)」
「チュ、チュッチュウ(忠助と呼んでください)」
「チュウ……チュッチュチュー(忠助さん……私は初美)」
「チュチュウチュウ(あいにくの雨ですね)。チュチュ、チュ?(よかったら、うちに来ませんか?)」
「チュッ……チュウ?(えっ……いいのかしら)」
僕らの子孫は多分──、
鼠算式に増えるんじゃないかと思う。
完
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