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【まったくデレないきみ】
「ここにいたんだ」
やっと購入したケーキを持って戻ると、
Kは木の下にしゃがみ込んで雨宿りをしていた。
いきなりの雨。
近くのベンチで待っていたKは手ぶらで、
傘はおろか、携帯も財布も持っていなかったんだと思う。
「お待たせ。ちゃんと買えたよ、ほら」
急いでケーキ屋の紙袋と、
近くの薬局で買ってきた二本の傘を見せる。
が、Kは僕を親の仇のように睨み、黙り込んでいる。
「あの、K、ずぶ濡れだよね、大丈夫?」
「……大丈夫なわけない。長すぎ。なんで予約の電話入れておかなかったんだよ 」
Kが立ち上がって、
僕の足を容赦なく蹴る。
「痛っ……暴力やめてよ」
「やだ。『お腹すかない?』って連れ出したのはJ。責任とれ」
「でも、Kったら朝から何も食べてないみたいだったし、僕は『何か食べるなら作るよ』って言ったんだよ。だけど、きみが外食したいって言うから……」
「うるさい。言い訳とかやめて。こっち方面に来るならあの店のチーズケーキ買うのは常識」
そっぽを向いたKに、僕はハンカチを差し出す。
「ごめんね、K」
「なんで謝るの? 天気予報は雨だったわけ? 知ってたのにわざと傘を持たずに連れ出したってこと?」
「ち、ちがうよ、今日は全国的に晴れ予報で……」
「じゃあその予報をしたのがJだったとか? ハズレたら責任とって謝罪する立場?」
「そうじゃないけど」
「なら謝る必要ないだろ。ご機嫌とり。サイテー」
──僕はもう言い返さない。
何か言うとまた蹴られそうだし。
「ちょっと、どうして黙るのさ。まるでこっちがいじめたみたいじゃん。何も間違ったこと言ってないよね。それとも〝君のせいじゃないよ〟とか言ってあげないと不満?」
「……ううん。僕、すぐにタクシー拾ってくるよ」
早く帰ってケーキ食べさせないと。
空腹時のKは酷いのだ。
「待って」
歩き出そうとした僕の傘を、Kが引っ張る。
「どうしてわからないわけ? 頭悪いなあ。こんなところにまた一人で置いていかれるの嫌だってことくらい、考えなくてもわかるでしょ。だいたい傘二本買うとか。本当、ぜんっぜん気が効かないよな!」
「K、それって……」
(相合傘の方が、良かった?)
そう思ったら──
「じゃーね。あ、ケーキ濡らしたらただじゃおかないから」
Kは傘を二本とも奪い取り、
僕を置いて先に帰ってしまった。
完
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