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極上の泣き顔。そんなに悔しいのに、キスさせてくれるのは、大和の恋人に、俺に勝ったら大和を渡すという約束をしているせいだ。勝てなければ、大和は俺のものなのだ。
この腕の中の温もりと、大和という存在が、俺の全てであるのだけれど、少しも大和には伝わっていない。大和を抱きたくて、戦い抜き、戻ってきたのに、全く理解されていないのだ。
舌を入れてみると、大和はきつく目を閉じる。ほんのり、白磁の肌に赤身がさし、小さめの唇が、震える。中は熱く、大和もある意味、恋人の他にもあれこれいるので、それなりにキスも上手い。
「……抱きたい」
キスの合間の呟きに、大和は激しく反応すると、俺を突き飛ばして逃げた。
「……やっぱり、すぐには無理かな」
大和は俺を助けるために、鬼同丸の頭領代行を引き受け、困難な仕事もこなしてきた。多分、尊敬はされているが、俺を恋人としてはみていない。
俺が、一羅に呼び出され、鬼城本部に向かうと、鬼城の重鎮が揃っていた。
「鬼城 五羅、参りました」
二十三年は長かった。鬼城の重鎮も入れ替わり、俺の知っているメンバーではない。しかも、鬼城は、大重罪人、鬼城 孝太郎を輩出?してしまった一族であるので、常に警察にマークされていた。保守派が増えていたとしても、仕方がない。
大広間に、俺が入ると、皆が顔を見合わせていた。大広間の上座には、一羅もいるが、影は薄い。
大広間に座る多くは、亜空間も使えない。本来の鬼城では、この部屋に入るのも許されない立場の人間であった。セキュリティーや護衛の任務に就かない一般人が、重鎮になる時代になっていたのだ。
「孝太郎が出てきたとしても、鬼城は関わるべきではありません。やっと、無縁の世界になったのですから」
無縁な筈はない。孝太郎が亜空間から出てくる。そのきっかけを与えたのも、俺達だ。亜空間で硬直状態を続けるよりも、決戦とすることを望んだのだ。しかし、ここまで、鬼城は腐っていたのか。
「相手が攻めてきた場合は、逃げるのか?」
古いメンバーも残っていたが、戦闘については、鼻で笑われていた。
「勝てないのでしょう。では、逃げるが勝ちでしょう」
亜空間で追われた場合、この宇宙のどこにも逃げ場がないということを、こいつらは知らない。
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