第1章

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 黒須が苦笑いしていた。 「まあ、大和さん、超美形ですからね。それも、本人は全く美醜に執着なしで、周囲の思惑に無頓着。あれは、面倒なお方です」  そうなのだ、大和は簡単に手に入れられそうなのに、実際はほとんど不可能なほどに、ガードは固い。そのギャップに、中々、諦めがつかなくなるのだ。 「まあ、蕎麦でも食べながら話しましょうか」  何故、蕎麦であったのか。俺は、黒須と鬼城本部から出ると、町中を並んで歩いてしまった。  蕎麦屋が、鉄鎖の本部の横にあっただけであった。和風の二階家で、店内は狭いが、客は並んで待っていた。そこに黒須が入ると、店主は黙って二階に案内してくれた。 「大和さんに、相談しようとしていたのですが。鬼同丸に、弟を託したいと思っていましてね。何というのか、俺の弟は、問題がありまして……」  和室の個室は、まるで旅館の一室のようでもあった。襖で仕切られているが、襖を確かめると、防音の設備もついていた。中々ハイテクなのかもしれない。窓は、障子と二重になっていて、外からの視線も遮断していた。  黒須が、障子を開くと下を見た。  細い通りには、日本髪の女性が歩いていた。花魁のような姿で、とても美しい。しかし、どうしてこんな場所に居るのだろうか。観光客相手ならば、表通りのほうがいい。 「……あれが、弟でしてね」  どれだ?俺が下を向くと、黒須が指を差していた。しかし、そこには、花魁しかいない。 「どの人だ?」 「…………花魁がそうです」  どう見ても、女性であった。 「ええと、女装が趣味なのか?それとも、男性が好きな方か?」 「あれは雪家とのハーフでして、元々、女性的な姿なのです。でも、ちゃんと女性と付き合っていたのです」  でも、ある日、雪家の男の特性が出てしまったのだ。女性との情事のあとに、雪男化し、相手を踏み殺してしまった。以後、女装するようになってしまったという。 「で、何故?鬼同丸?」 「既に、雪男が二名いらっしゃる」  確かに、大和が犬のように可愛がってしまっているのは、雪男であった。熊のような姿のまま、大和の傍らでじゃれている。でも、白熊の雪緒のほうは周期的に情交しないと、熊の姿は保てない。黒熊のノノノウは逆で、情交すると人型になる。  黒須の弟は、白熊のほうらしい。  雪男は、生涯に相手を一人しか定めないというので、失ったショックは大きかったのだろう。 「……S級か?」
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