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黒須が苦笑いしていた。
「まあ、大和さん、超美形ですからね。それも、本人は全く美醜に執着なしで、周囲の思惑に無頓着。あれは、面倒なお方です」
そうなのだ、大和は簡単に手に入れられそうなのに、実際はほとんど不可能なほどに、ガードは固い。そのギャップに、中々、諦めがつかなくなるのだ。
「まあ、蕎麦でも食べながら話しましょうか」
何故、蕎麦であったのか。俺は、黒須と鬼城本部から出ると、町中を並んで歩いてしまった。
蕎麦屋が、鉄鎖の本部の横にあっただけであった。和風の二階家で、店内は狭いが、客は並んで待っていた。そこに黒須が入ると、店主は黙って二階に案内してくれた。
「大和さんに、相談しようとしていたのですが。鬼同丸に、弟を託したいと思っていましてね。何というのか、俺の弟は、問題がありまして……」
和室の個室は、まるで旅館の一室のようでもあった。襖で仕切られているが、襖を確かめると、防音の設備もついていた。中々ハイテクなのかもしれない。窓は、障子と二重になっていて、外からの視線も遮断していた。
黒須が、障子を開くと下を見た。
細い通りには、日本髪の女性が歩いていた。花魁のような姿で、とても美しい。しかし、どうしてこんな場所に居るのだろうか。観光客相手ならば、表通りのほうがいい。
「……あれが、弟でしてね」
どれだ?俺が下を向くと、黒須が指を差していた。しかし、そこには、花魁しかいない。
「どの人だ?」
「…………花魁がそうです」
どう見ても、女性であった。
「ええと、女装が趣味なのか?それとも、男性が好きな方か?」
「あれは雪家とのハーフでして、元々、女性的な姿なのです。でも、ちゃんと女性と付き合っていたのです」
でも、ある日、雪家の男の特性が出てしまったのだ。女性との情事のあとに、雪男化し、相手を踏み殺してしまった。以後、女装するようになってしまったという。
「で、何故?鬼同丸?」
「既に、雪男が二名いらっしゃる」
確かに、大和が犬のように可愛がってしまっているのは、雪男であった。熊のような姿のまま、大和の傍らでじゃれている。でも、白熊の雪緒のほうは周期的に情交しないと、熊の姿は保てない。黒熊のノノノウは逆で、情交すると人型になる。
黒須の弟は、白熊のほうらしい。
雪男は、生涯に相手を一人しか定めないというので、失ったショックは大きかったのだろう。
「……S級か?」
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